『膠着する戦況』

 この日のレースは、ウィンザーノットの単騎逃げから始まった。後に函館記念(Glll)連覇などの実績をひっさげて種牡馬入りしたこの馬自身、当時の競馬界では常に「未完の大器」として語られていた。

 しかし、ウィンザーノットはこの日が休養明け9ヶ月振りの実戦だった。休養前は5連勝中だったものの、周囲の騎手たちもさすがに

「最後にはバテる」

と踏んだのか、積極的に潰しにいく馬も現れず、有力馬たちは中団より後ろに控えた。

 先行馬たちが逃げ馬を潰しにいかず、むしろ後ろの有力馬を牽制する流れとなったことで、レースは超スローペースとなっていった。だが、スズカコバンはそんな流れの中にも関わらず、後ろから2番目という位置に陣取っていた。流れからいえば不利なことは確かだが、前にステートジャガーを置き、後ろ・・・最後方には天皇賞・春(Gl)で先着を許したサクラガイセンがいる以上、村本善之騎手としてもおいそれと動ける展開ではなかった。