『二冠への道』

 閑話休題。ダービー馬メリーナイスは、ダービー後も充実の一途をたどっているかのようにみえた。メリーナイス陣営が秋の初戦に選んだセントライト記念(Gll)でも、横綱相撲で快勝し、菊花賞へ向けて死角はないことを世にアピールした。菊の前哨戦で、ダービー2着のサニースワロー、春の二冠で1番人気となったマティリアルを退けたメリーナイスは、これといった夏の上がり馬も現れない情勢の中、日本ダービー菊花賞の二冠制覇に向けて大きな一歩を踏み出した。

 セントライト記念の結果で出走馬たちとの勝負づけは済んだ感があったし、セントライト組以外に目を向けても、京都新聞杯(Gll)組すら勝ち馬レオテンザン以下小粒な感は否めず、さらに当時はまだ正式なトライアルではなかったものの、実質的にはトライアルと同様の役割を果たしていた神戸新聞杯(Gll)組に至っては、二冠牝馬マックスビューティの前にあっさりとひねられていた。彼らの中に、ダービーでの6馬身差を逆転する馬が隠れているとは、とても思えなかった。

 菊花賞(Gl)当日のメリーナイスは、堂々の単枠指定を受けて、1番人気に推された。昔から「最も強い馬が勝つ」といわれる菊花賞に勝てば、もはや誰も彼のことを弱いと言う者はいなくなるに違いない。それまで過小評価され続けてきたメリーナイスは、秋をきっかけに誰もが認める一流馬への道をいよいよ歩み始める・・・はずだった。