『天はなぜわかっては下さらぬ』

 種牡馬生活に入ることになったフレッシュボイスは、自らは3歳時から活躍する仕上がりの早さと、古馬になってから息長く走り続ける成長力をあわせ持っていた。彼の本質はマイラーだったと思われるが、菊花賞(Gl)で6着、有馬記念(Gl)でも5着、6着に入った経験があるように、距離が伸びてもそこそこの走りができる自在性、融通性も兼ね備えていた。

 しかし、そんな彼の長所は、厳しい現実の前にかき消されてしまった。フレッシュボイスの初年度種付けのために集まってきた繁殖牝馬は、わずか6頭にすぎなかったのである。翌春生まれた産駒は、そのうち5頭だった。これでは種牡馬としての成功は望めない。

 フレッシュボイスが種牡馬としてまったく人気が出なかった原因は、いくつか考えられる。血統的には主流と言い難いフィリップオブスペインの仔で、内国産種牡馬軽視の風潮もあって、血統的な魅力に欠けるとされていたこと、フレッシュボイス自身マイラーでありながら必ずしもスピードタイプとはいえず、むしろ近年冷遇されている典型的なパワー型の馬だったということ・・・。フレッシュボイスが示した適性は、本来種牡馬として魅力的な要素であるはずだったが、それらの要素がいとも簡単に無視されてしまうのが、日本の馬産の悲しい現実だった。

 フレッシュボイスの現役時代は、その極端なレースぶりから、個性派としての人気を集めていた。女性ファンもなぜか多かった、とのことで、かつてフレッシュボイスが繋養されていたある種馬場で彼の世話をしていた担当者は、女性ファンがフレッシュボイスの見学に訪れるたびに

「これが人間じゃなくて馬だったらなあ」

とため息をついていたという。