『戦慄の脚』

 フレッシュボイスは、直線入口地点では、まだ後ろから何番目、という位置にいた。いくら直線が長い東京競馬場でも、19頭だての多頭数でこの位置、しかも馬場状態が重馬場というのでは、普通の馬ではもはや勝ち目はない。だが、フレッシュボイスは違った。持ち前のパワーで重戦車のように馬場を引き裂くフレッシュボイスは、みるみるニッポーテイオーとの差を詰めていった。他の馬たちが苦しむ重馬場を、フレッシュボイスはむしろ助けとしながら末脚を炸裂させた。確かなパワーに裏打ちされた末脚・・・それは、まさに「鬼脚」と称えるに値する破壊力を持っていた。

 ニッポーテイオーも、後のマイル界に君臨することになる王者となるべき名馬である。どんなレースでも実力を出すことができる安定感は、この時点でも相当の水準に達していた。だが、この日の馬場で生きるのは、王者の安定感ではなく、重戦車の力強さだった。

 残り200m地点では、ニッポーテイオーにまだ3、4馬身ほどのリードがあるように見えた。しかし、2頭の脚色を見ると、どちらの馬が勝つのかはもはや誰の目にも明らかだった。フレッシュボイスは、並ぶ間もなくニッポーテイオーをかわし、そのままゴールへと駆け込んだ。その時既に、ニッポーテイオーには抵抗する余力は残されていなかった。

 結局フレッシュボイスは、ニッポーテイオーに1馬身4分の1差をつけ、安田記念制覇を果たした。・・・文字どおりの快勝だった。彼は自分自身の持ち味を最大限に発揮し、ついにGlという栄冠を手にしたのである。