『雨よ降れ降れ』

 しかし、フレッシュボイス陣営にはニッポーテイオー、そしてレースに勝つための勝算があった。安田記念は直線が長い府中で行われるため、先行タイプのニッポーテイオーよりも、追い込みタイプのフレッシュボイスに有利である。そして、レース当日の府中には雨が降り、馬場は水が浮き上がった最悪の状態となっていた。

 普通、芝の馬場悪化は逃げ、先行タイプの馬に有利で、差し、追い込みタイプには不利となることが多い。湿って重く、滑りやすくなった馬場では直線での瞬発力が殺されてしまい、前残りの競馬となりやすいからである。しかし、フレッシュボイスは追い込み馬でありながら、湿った馬場を得意としていた。フレッシュボイスには、馬場が悪くなればなるほどに、それを切り裂くような、並外れたパワーでターフを駆け抜ける力強さがあった。

 ところで、この日のフレッシュボイスには、それまでの主戦騎手だった田原騎手ではなく柴田政人騎手が騎乗していた。フレッシュボイスが回避した天皇賞・春では、柴田騎手が騎乗していた6歳馬ミホシンザンが復活を果たして優勝したが、この日のレースは、勝ち馬と並んで直線で斜行したニシノライデンは、2着で入線しながら失格の憂き目を見たことでも知られている。・・・そして、その時ニシノライデンに騎乗しており、不祥事の責任を取らされて騎乗停止処分を受けたのは、フレッシュボイスの主戦騎手である田原騎手だったのである。

 田原騎手が騎乗停止処分で騎乗できなくなったことから、この日のフレッシュボイスの手綱は、皮肉なことに柴田騎手に託さていれた。だが、柴田騎手といえば「豪腕」とうたわれ、追い込みで無類の強さを発揮する。この手替わりも、フレッシュボイスにとっては追い風だった。