『裏切られた思い』

 ところが、実際に生まれたハクタイセイを見た時、土田氏は自分の期待が見事に裏切られたという失望を感じずにはいられなかった。生まれたばかりのハクタイセイはひ弱で、牝馬のように線が細い馬だったからである。

 また、ハクタイセイハイセイコーとは違って、母のダンサーライトと同じ芦毛を受け継いでいた。無論血統的には何の不思議もない毛色ではあるが、ダンサーライトよりはハイセイコーの再来を夢見た配合だった以上、生産者の気持ちとしては、父に似た仔が出ることを望んでいた。それなのに・・・。

 しかも、この年の土田農場では、もう一つの重大な問題が生じた。土田農場ではこの年8頭の仔馬が生まれていたが、その中で牡馬は、ハクタイセイただ1頭だったのである。

 人間では「男女7歳にして席を同じくせず」という言葉があるが、馬の場合も放牧に際して、牡牝を当歳の時から分けることが多い。しかし、ハクタイセイを他の牝馬から隔離して1頭だけ放しておいたのでは、競争心が育たない。サラブレッドの競争心とは、世代の近い馬たちと互いに競いあうことなしには育ち得ないのである。そこで、ハクタイセイは、当歳時に早々とセリに出されることになった。

 ところが、ハクタイセイは、700万円に設定された当歳のセリで、無情にも買い手がつかない「主取り」となってしまった。・・・土田氏の思いは、裏切られてばかりだった。