『ダービー1番人気』

 閑話休題。長距離適性、コースの変化といったメジロライアン陣営のダービーへの期待の根拠は、彼らだけでなく多くの競馬評論家、そしてファンも賛同しうるものだった。ハクタイセイを管理する布施正調教師は

「ダービーでは、メジロライアンが最大の敵になる」

メジロライアンへの警戒心をあらわにしたが、それは何も彼だけの見方ではなかった。

 相手関係をみても、ハクタイセイの父ハイセイコーは、無敗で皐月賞を制しながらダービーではステイヤー血統の伏兵タケホープの前に一敗地にまみれており、その息子であるハクタイセイにも距離への不安は拭えない。また、皐月賞2着のアイネスフウジンも、父のシーホークこそスタミナ血統だが、それまでの活躍からはむしろ母父のスピード馬テスコボーイの影響が色濃く出ているものと思われた。そもそも逃げという脚質自体、東京2400mではむしろ不利となる。逃げ馬はただでさえ他の馬たちの格好の目標とされるが、差し・追い込み脚質優位の本格コースで逃げてなお勝つためには、よほど図抜けた実力が必要とされる。極限のスピードとスタミナを問われるこのコースを、まだ心身ともに未完成な春の4歳馬が逃げ切るということは、想像以上に至難の業だった。現に、当時は1975年(昭和50年)のカブラヤオー以来、15年の長きに渡ってダービーの逃げ切り勝ちは出ていなかった。

 このように様々な条件を並べてみると、「メジロライアン優位」は動かないかに見えた。そして、ダービー当日1番人気に支持されたのは、皐月賞馬でもなければ最優秀3歳牡馬でもなく、いまだ無冠のメジロライアンだったのである。