『思ったより走るぞ』

 スズパレードは、こうして生産界の歴史から姿を消したソルティンゴが遺した忘れ形見たちの1頭であり、その意味でわずかに注目を集める程度の馬だった。生まれてきたスズパレード自身は、小柄な体格であまり見栄えがせず、地味な存在だった。

 ただ、スズパレードが育った柏台牧場には、他の牧場にはない特色があった。柏台牧場では、自然の地形を利用して、牧場の敷地内に大きな高低差をつけていた。

 柏台牧場は、当時ようやく日本で採り入れられ始めたばかりだった自然放牧を、他の牧場に先駈けて導入していた。おかげで、柏台牧場の中では、馬が移動する際には天然の「坂路」を越えなければならず、馴致前から自然と幼駒の腰が鍛えられるというメリットがあった。

 生まれながらに若干の脚部不安があったスズパレードだったが、彼は天然の「坂路」で鍛えられ、次第に隠された資質を発揮するようになっていった。やがて馬主、所属厩舎も決まり、中央競馬でデビューすることになったスズパレードは、デビュー戦こそダートで3着に敗れたものの、折り返しの新馬戦では芝に替わって何と9馬身差の圧勝を見せた。

 初勝利を挙げて意気上がるスズパレードは、その勢いを駆って400万下、オープン特別も勝ち、3連勝を飾った。3連勝の内容も、先行して直線で抜け出し、余力を残して勝つという横綱競馬ばかりだった。

 3歳戦を終えて4戦3勝3着1回ならば、「クラシックの主役候補」といっても十分に通用する。富田六郎調教師をはじめとする関係者たちは、

「この馬は、思ったより走るぞ」

と驚き喜び、これならばクラシックも夢ではない、とひそかに胸を躍らせた。そんな彼らのクラシックロードの始まりは、共同通信杯4歳S(Glll。年齢は当時の数え年表記)だった。