『熱い季節の終わり』

 伊藤師は、残されたウイニングチケットのために、かつてはナリタタイシンの主戦騎手としてウイニングチケットの前に立ちはだかってきた武豊騎手にその騎乗を依頼した。幸いと言うべきか、ナリタタイシンは、当時戦線を離脱していたため、武騎手もこの依頼を快諾した。こうしてウイニングチケットは、武騎手との新コンビでオールカマー(Glll)に出走し、ビワハヤヒデとの再戦に臨むことになった。

 他の馬の陣営は、ビワハヤヒデウイニングチケットが出てくると聞くと、勝算がないとばかりに次々と回避したため、レースは8頭だてで行われた。1番人気はビワハヤヒデ、2番人気はウイニングチケットで、この2頭の馬連は130円である。

 しかし、ウイニングチケット単勝支持率は、もはやビワハヤヒデの半分にも満たなかった。菊花賞以来久々のビワハヤヒデとの直接対決となったオールカマーだったが、この時2頭の差は、もはや歴然としていた。

 レースに入ると、ビワハヤヒデは先頭のロイスアンドロイスを見ながらの2番手につけ、ウイニングチケットは後方待機策を採った。これは、それぞれの得意とする戦法そのものである。

 ビワハヤヒデは、第3コーナーで先頭に並びかけていった。するとウイニングチケットも、やはり進出を開始して直線での末脚に賭けた。だが、いまや成長したビワハヤヒデの前には、ウイニングチケットの末脚さえも歯が立たなかった。ビワハヤヒデを差すどころか、ロイスアンドロイスをかわすことにも苦労する始末で、ようやくロイスアンドロイスはかわしたものの、ビワハヤヒデからは1馬身4分の3の差をつけられ、一度も脅かすことのないままレースは終わってしまった。

 その後ビワハヤヒデとともに天皇賞・秋(Gl)へ進んだウイニングチケットだが、5着に敗れたビワハヤヒデとともに、8着に敗れてしまった。ビワハヤヒデは左前脚、ウイニングチケットは右前脚に屈腱炎を発症してしたのである。いずれも重症であり、競走能力への影響は深刻だった。

 レースのわずか3日後、ウイニングチケットの現役引退と種牡馬入りが発表された。まるで柴田騎手の後を追うかのような、突然の引退劇だった。ビワハヤヒデ天皇賞・秋を最後に引退し、かつて平成新三強とうたわれたライバルのうち2頭は、くしくも同じ日、同じレースを最後に現役を退くことになった。ライバルたちが繰り広げた熱い季節は、その主役たちの退場によって、完全に終わりを告げた。