『そして戦いの幕は上がり・・・』

 ウイニングチケットのクラシック戦線は、皐月賞トライアルの弥生賞(Gll)から始まることになった。弥生賞は、毎年皐月賞日本ダービーの有力候補が終結して激戦となることが多く、この年も例外ではなかった。ビワハヤヒデの姿こそないとはいえ、ラジオたんぱ杯3歳Sの覇者ナリタタイシン、後に菊花賞(Gl)、天皇賞・春(Gl)で2着に入るステージチャンプなどが揃った顔ぶれは、前哨戦というには勿体ないものだった。

 そんな充実した出走馬たちの中で、ウイニングチケット単勝330円と抜けた支持ではなかったとはいえ、堂々の1番人気に支持された。

 1番人気で他にマークされる立場になったウイニングチケットだったが、彼の戦い方そのものは変わらなかった。先行馬たちが先頭を激しく争う中、ウイニングチケットは自分の競馬に徹し、馬群から少し離れた位置にいるナリタタイシンからさらに遅れた一番後ろにつけたのである。

 ウイニングチケットが動いたのは、レースの中間地点である1000m地点の付近だった。ウイニングチケットと柴田騎手は、一番後ろからマクリ気味に進出を開始した。

 1番人気のウイニングチケットが動いたことによって、レースは全体が動き始めた。ウイニングチケットをマークしていたナリタタイシンもまた、先に動いたウイニングチケットを追いかけて、ぴったりとついてきていた。

 最後の直線に入ると、ウイニングチケットは前を行く馬たちをまとめてかわし、一気に突き抜けた。後方からは、そんなウイニングチケットの末脚が鈍ったところを一気に差し込もうと、ナリタタイシンたちも襲ってくる。・・・だが、この日のウイニングチケットは、周囲とはまったくものが違っていた。

 直線での末脚勝負となったウイニングチケットナリタタイシンとの戦いは、ウイニングチケットが追いすがるナリタタイシンを逆に突き放し、2馬身の差をつけて快勝した。1番人気でマークされる展開となりながら、マークに徹してきた相手を直線でさらに突き放すという競馬は、着差もさることながら、実質はそれ以上の圧勝だった。

 ウイニングチケット弥生賞を制する一方で、若葉S(OP)から始動した最大のライバル・ビワハヤヒデは、比較的相手関係に恵まれたとはいえ、鞍上に新しく迎えた岡部騎手とのコンビで危なげのない勝利を収めて皐月賞へと駒を進めた。皐月賞の前評判は「BW対決」「岡部対柴政」の様相が強くなっていった。、「花の15期組」と称された同期でデビューし、「天才」と呼ばれた関西の福永洋一騎手が不慮の事故で引退を余儀なくされた後はともに競馬界を引っ張ってきた2人の対決に、競馬界は沸いた。