『見えてきた構図』

 ウイニングチケットには、ホープフルS(OP)での圧勝により、「クラシックの主役」という声がかかり始めた。

 もともとは、彼らの世代の中でクラシック戦線の最有力候補と言われていたのは、ビワハヤヒデだった。後にGlを3勝、それもすべて圧倒的な強さで制覇するビワハヤヒデは、3歳時から熱発明けのデイリー杯3歳S(Gll)をレコードで圧勝するなど、大器の片鱗を見せていた。

 だが、そのビワハヤヒデ朝日杯3歳S(Gl)、そして共同通信杯(Glll)で続けて2着に惜敗したことで、その様相は大きく変わりつつあった。「ビワハヤヒデで絶対」という構図は既に崩れ、高いレベルでの混戦、という予想に変わったのである。そこでビワハヤヒデに並び、追い抜く勢いで評価を高めたのが、ウイニングチケットだった。

 ビワハヤヒデは、共同通信杯4歳Sの敗北を受けて、主戦騎手が岸滋彦騎手から岡部騎手に交替していた。岡部騎手が得意とする戦法は、「先行、好位からの抜け出し」という堅実な、しかしある意味で「面白味のない」レースだった。それに対して新たに台頭してきたウイニングチケットは、大向こう受けする派手な差しを得意としている。それぞれの騎手を象徴する対照的な戦法をとる彼らの戦いは、ファンにとって非常に分かりやすい関心の的となった。

 また、この時点ではビワハヤヒデウイニングチケットの評価に及ばないものの、年の暮れにラジオたんぱ杯3歳S(Glll)を勝って、クラシック戦線に名乗りをあげたナリタタイシンなど、さらなる新興勢力も次々と台頭していた。こうして、93年牡馬クラシック戦線は、その幕を開けたのである。