『もがく者』

 悪夢のような菊花賞の大敗は、メリーナイスのダービー馬としての価値を大きく傷つける形となった。メリーナイス菊花賞の悪夢を振り払うためには、サクラスターオーに直接対決で勝つしかなかった。

 橋本調教師は、メリーナイスの次走を有馬記念(Gl)に定めた。ダービーと距離が近い有馬記念ならば、ダービーで見せたあの豪脚の再現があるかもしれない。何よりも、有馬記念にはサクラスターオーの出走予定があった。

 この年の有馬記念古馬の層が薄いことから、4歳馬が優勢とみられていた。1番人気はサクラスターオー、3番人気はメリーナイスと4歳世代のクラシック馬が有力視されており、一方古馬陣営の有力馬で調子と実績を兼ね備えた馬といえば、ダイナアクトレス(2番人気)くらいのものだった。

 メリーナイスにとって、このレースはサクラスターオーを破って名誉回復をするチャンスだった。馬同士の序列もはっきりしないうちに1度戦って敗れただけで、その後は再戦の機会すら与えられなかったサクラロータリーのときと違い、今度は直接対決でメリーナイスの名誉を挽回することができる。ここでサクラスターオーを撃破すれば、メリーナイスは今度こそ世代の最強馬として、皆に認めてもらえるはずだった。