『優駿』

 そして、ダービーのゲートが開いた。メリーナイスは好スタートを切って、第1コーナーでは6番手ぐらいにつけることに成功した。「ダービー・ポジション」の神話が生きていたころから騎手を続けていた根本騎手は、あまり後方にいると届かないことが多い日本ダービーでは、ある程度前につけることが絶対に必要となる、と考えていた。そんな根本騎手にとって、この日の位置は思っていた以上に理想的なものだった。根本騎手は、この時既に自分たちの勝利を確信したという。

 だが、根本騎手はまだ欲を表に出すことなく、作戦どおりに馬なりのペースを守り続けた。第3コーナー付近、他の馬たちがぼちぼち仕掛け始めても、自分だけは仕掛けを遅らせた。

 ・・・そして、待ちに待った第4コーナーがやってきた。もはや、誰にも遠慮することはない。根本騎手が気合いを入れると、メリーナイスは一気に上がっていった。