『四白流星、六馬身』

 直線残り400mあたりに入ると、メリーナイスの豪脚はついに爆発した。府中名物の坂を一気に駆け上がると、もはや追走してくる馬は何もいなくなった。マティリアルは、ゴールドシチーは、他のライバルたちは、何にも来ない。大歓声の中で、後続との差だけが見る見る広がっていく。

 赤い帽子と四白流星の独走劇は、6馬身差の大圧勝で決着した。ダービー史上、この日のメリーナイスより大きな着差をつけて勝ったダービー馬は、8馬身差のセントライトとオートキツ、そして7馬身差のメイズイがいるだけである。レースの後、根本騎手が

「後ろの馬の足音が聞こえませんでした」

と答えたのも、おそらく本音だったに違いない。

 なお、この日2着に来たのは、抽選を突破して出走にこぎつけた人気薄のサニースワローだった。単勝どころか複勝が4680円だったオッズが物語るとおり、レース前は「その他大勢」にすぎなかったサニースワローだが、日本ダービー初騎乗となる大西直宏騎手の好騎乗が、大殊勲につながる形となった。ちなみに、この馬の甥が10年後、同じ馬主・同じ厩舎・同じ騎手でダービーを制覇する1997年の二冠馬サニーブライアンである。

 ちなみに、人気サイドとなったゴールドシチーは4着、馬体が16kg減のマティリアルは、まったく見せ場ないまま18着に敗退した。この日のレースは、どこをどう取ったとしても、メリーナイスの完勝という以外には評価の使用がないものだった。

 ダービージョッキーとなった根本騎手は、愛児を一緒に馬上に乗せたまま、前代未聞の記念撮影を行った。家族をあらかじめ呼んだ段階で、彼はこのことをたくらんでいたのだろう。ちなみに、騎手時代にはカイソウ、クリノハナでダービーを勝っている橋本調教師だったが、調教師としてのダービー制覇は初めてのこととなった。この誇らしくも温かい人々に囲まれて、メリーナイスも神妙に写真に収まった。・・・それが、メリーナイスの最も輝いた瞬間だった。