『運命の悪戯』

 このように、フジサカエーの一族は宮村牧場の宝ともいうべき存在だったが、その中でのツルミスターという牝馬自体は、決して目立った存在ではなかった。彼女は中央競馬への入厩こそ果たしたものの、その戦績は3戦未勝利というものにすぎなかった。

 そんなツルミスターが宮村牧場に帰ってくることになったのは、彼女を管理していた荻野光男調教師の発案である。何気なくツルミスターの血統表を見ていた荻野師は、彼女の牝系に代々つけられてきた種牡馬が皆種牡馬としてダービー馬を出しているという妙な共通点に気付き、

「なにかいいことがあるかもしれん」

ということで、彼女を繁殖牝馬として牧場に戻すことを勧めてきたのである。調教師の中には、血統にこだわるタイプもいれば、ほとんどこだわらないタイプもいる。もし荻野師が後者であったなら、後のGl2勝馬は誕生しなかったことになる。これもまた、運命の悪戯といえよう。