『フロックにあらず』
ファンを、そして競馬界をあっといわせた皐月賞制覇の後、ヤエノムテキは二冠・・・日本ダービー制覇を目指した。皐月賞の結果を「展開がはまっただけ」「人気薄ゆえの激走」とフロック視する声はあったが、ふたを開けてみると、彼はダービーでも単勝640円の2番人気に支持された。この年のダービーは、近年まれに見る混戦模様であり、1番人気はサッカーボーイで580円だったが、彼に対する支持は皐月賞馬の名に決して恥じないものといえた。
この日も中団から追い込む競馬で皐月賞の再現を狙ったヤエノムテキだったが、今度はその末脚に、皐月賞ほどの破壊力はなかった。第55回日本ダービーは、早めに抜け出した皐月賞3着馬サクラチヨノオーと、そのサクラチヨノオーを徹底してマークしてきたNHK杯勝ち馬メジロアルダンの一世一代の死闘で知られている。ヤエノムテキは、その歴史に残る名勝負には加わることができないまま、勝ったサクラチヨノオーから3馬身ほど遅れた4着に敗れ去った。最後に止まったその脚は、彼の長距離適性に若干の不安を抱かせるものだった。
もっとも、荻野師は
「まあ、4着までは来たし、一冠はとっとることやし・・・」
と語っているが、皐月賞制覇に続いてダービーでも、馬券に絡めなかったとはいえきっちり掲示板を確保し、ヤエノムテキはようやく世代のトップクラスとしての実力をファンに認知させることに成功した。それ以降のヤエノムテキは、それ以前とはうって変わって彼らの世代を代表する馬の1頭に数えられるようになった。・・・長距離適性への一抹の不安を残して。