『予想外の爆走』

 ただ、西浦騎手の判断がよかった点は、サクラチヨノオーが第4コーナーを過ぎて一気にスパートをかけた時も、時期尚早と見て動かなかったことである。府中の長い直線ならば、あわてて動かなくても差し切れる。むしろ、相手が早く動いたなら、その相手がばてるところで一気に差し切る方がいい・・・。

 こうしてヤエノムテキは、サクラチヨノオーと、それにつられて動いた馬たちが動いても、まだ脚をためることに徹した。待ちに待ったヤエノムテキは、サクラチヨノオーの脚色が鈍った直線坂下で一気に仕掛け、馬群から飛び出した。・・・その脚色はサクラチヨノオーを、そして他の馬たちを圧倒していた。ヤエノムテキサクラチヨノオー、そして他の馬たちをたちまちとらえ、そしてかわしていった。

「勝ったと確信したのは、ゴールまで1ハロンのあたりでした」

というのは、西浦騎手のレース後の談である。それは、スタンドが戸惑うほどのあっという間の逆転劇だった。

 気がつくと、9番人気のヤエノムテキは、そのまま他の17頭を押し切り、先頭でゴールしてしまった。最後にディクターランドに4分の3馬身差まで差をつめられたものの、完勝だった。伏兵と呼ばれたヤエノムテキの勝利は、11年ぶりの関西馬による皐月賞制覇であり、また様々な幸運を生かし切っての勝利だった。芝の初戦となった毎日杯で4着に破れた結果から彼のことをダート馬と思いこんでいた多くのファンは、完全に意表をつかれる形となった。