『大きな木の下で』

 こうしてグランプリホースとなったダイユウサクだったが、有馬記念で一世一代の末脚を爆発させて燃え尽きてしまったのか、8歳時には6戦したものの、一度も掲示板に乗ることさえできなかった。この年限りで現役を引退することになったダイユウサクは、引退後は新冠の八木牧場で種牡馬生活に入ることになった。そして、『世紀の一発屋として鳴らしたダイユウサク、生涯一度の激走で後はウハウハの種牡馬生活』・・・といけば良かったのだが、さすがに世の中そんなに甘くはなかった。

 種牡馬の過剰供給、構造不況、外国産馬の大攻勢・・・。これらの要因が重なり、ダイユウサク種牡馬としてのスタートは厳しいものとなった。初年度こそ有馬記念の印象がまだ強く残っており、また八木牧場が宣伝に力を入れてくれたおかげで何とか13頭の産駒を確保したものの、翌年以降は2頭、1頭と交配数が落ち込み、ついには種付け自体がなくなってしまった。

 それでも、八木牧場の関係者は、ダイユウサクの面倒を一生見続けていくつもりだった。牧場にとって、種付けのない種牡馬は牧草地と経費がかかるだけの存在に過ぎないはずである。しかし、彼らはそんな野暮なことは言わなかった。有馬記念をレコード勝ちしたほどの馬が老後も保障されないなんてあんまりではないか、と。そんな温かい視線に囲まれながら、ダイユウサクは大きな木の下で草を食みながら、のんびりと余生を過ごしていた。