1999-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『血の神秘』

フィリップオブスペインは、英国で9戦1勝という戦績を残している。生涯唯一の勝ち鞍が3歳限定の5ハロン戦であるニューS(英Glll)という重賞だというのは、わが国の競馬とはまったく異なる本場のレース体系の奥深さを物語る。また、他にも3歳限定の6ハロン戦ミ…

『名門牧場の危機』

フレッシュボイスは、1983年5月9日、当時静内にあった小笠原牧場で生をうけた。当時、小笠原牧場といえば、静内近辺では古い歴史を持つ名門牧場のひとつとして知られており、かつては1952年の皐月賞、ダービーでともに2着したカミサカエを出したこともあった…

『常識を超えた馬』

競馬界には「常識」と呼ばれるものが無数に存在している。馬の血統、個性、レースの展開、騎手の手腕、性格、人間関係など、様々な局面で気まぐれに顔を覗かせる「常識」は、馬券の予想にあたっても、私たちの予想に大きな影響を与える。時にはとんでもない…

■第009話―雪、降りやまず「フレッシュボイス列伝」

1883年5月9日生。牡。鹿毛。小笠原牧場(静内)産。 父フィリップオブスペイン、母シャトーバード(母父ダイハード)。境直行厩舎(栗東)。 通算成績は、26戦7勝(3-7歳時)。主な勝ち鞍は、安田記念(Gl)、産経大阪杯(Gll)、日経新春杯(Gll)、毎日杯…

『煌く殊勲の向こう側』

こうして再び消息が判明した後は、レッツゴーターキンの血を求める牧場も、ごく少ない数ながら現れているようであり、1998年の種付け頭数は7頭まで回復した。もっとも、この程度の頭数では、今後レッツゴーターキン産駒から世間の注目を集める名馬が誕生する…

『牛の牧場にて』

一度消息が途絶えたレッツゴーターキンの行方が知れたのは、ある競馬雑誌の取材によってだった。その雑誌が内国産Gl馬たちの近況を伝える特集を組んだ際にレッツゴーターキンを発見し、その現況を世に伝えたのである。レッツゴーターキンは、「牛の牧場」に…

『嗚呼、天皇賞馬』

・・・しかし、6歳にして天皇賞・秋を制し、1992年秋の中距離王の地位を手にしたはずのレッツゴーターキンに対する競馬界の扱いは、決してよいものではなかった。悲しいかなレッツゴーターキンの実力、そして彼自身に対する評価は、天皇賞・秋の勝利によって…

『歓喜の光景』

予期しない勝利を手にしたレッツゴーターキン陣営は、凄まじい歓喜に沸いた。橋口師は「天皇賞をこんな絶妙の騎乗で勝ってくれるなんて・・・」と感激を隠さなかった。Gl初勝利を手にした橋口師は、レッツゴーターキンが先頭に立った時からは大騒ぎだったと…

『いぶし銀の一世一代』

レッツゴーターキンは、ダイタクヘリオスとメジロパーマーが刻んだ狂気のハイペースに惑わされることなく、折り合いもしっかりとついたまま、直線まで後方に控えて脚をためていた。そして、先行馬たちが総崩れになる中で、彼の末脚は最大限の破壊力を発揮し…

『死のハイペース』

レースを引っ張るメジロパーマーとダイタクヘリオスは、互いにまったく退く気配を見せなかった。希代の逃げ馬であり、しかもいずれもGlをそれ以前に1つ、その後にもう1つ制した実力馬である彼らが互いに一歩も引かないまま激しく競りあったのだから、ペース…

『劇場、開幕』

この日展開されたレースの内容は、恐ろしいものだった。―それは誰もが予想したとおりの展開のはずだったが、まさかそこまで激しいものになるとは、誰1人予想していなかった。 戦いは、メジロパーマーとダイタクヘリオスの激しい先頭争いによって始まった。1…

『水面下の戦い』

大崎騎手は、あらかじめ橋口師と話し合い、採るべき作戦を決めていた。レッツゴーターキンは、もともと末脚に賭ける差し馬である。ダイタクヘリオスとメジロパーマーという2頭の逃げ一手の馬が揃ってハイペースが必至と思われるこのレースでは、下手な小細工…

『一本かぶりの中で』

第106回天皇賞・秋(Gl)の出走馬は、例年に比べると手薄なものだった。当時の古馬中長距離界の両雄というべき存在は、メジロマックイーンとトウカイテイオーだった。しかし、天皇賞・春を制したメジロマックイーンは、この時骨折で戦線を離脱しており、さらに…

『ローカルのスペシャリスト』

同じ宮崎県出身という地縁で結ばれていた大崎騎手と橋口師は、谷川岳Sを勝ったことにより、レッツゴーターキンという馬でも手を結ぶことになった。谷川岳Sを境として、レッツゴーターキンには大崎騎手が騎乗するようになっていった。 すると、それまで成績の…

『大崎昭一に1000勝させる会』

この事件の後、大崎騎手の本拠地である関東の調教師たちからは、大崎騎手への騎乗依頼がほとんどなくなった。馬に乗れない騎手が騎手を続けることはできない。こうして大崎騎手の騎手生命は風前の灯となったが、そんな苦境にあっても、すべての人々が大崎騎…

『事件』

数日後のスポーツ紙に踊ったのは、「大崎 不正行為」「騎乗停止処分」というショッキングな見出しだった。大崎騎手は、外ラチ沿いで声をかけられて返事をしたことで、「特定のファンに対して馬の調子を教えた」という疑惑を持たれ、「公正競馬に反する」と問…

『地獄を見た男』

6歳になってからも相変わらず不振が続いたレッツゴーターキンだったが、新潟に遠征した彼は、そこでようやく復活の兆しを見せた。谷川岳S(OP)に出走したレッツゴーターキンは、そこで実に1年1ヶ月ぶりの勝利をもぎ取ったのである。レッツゴーターキンに復活…

『報われぬ連勝』

5歳になってからのレッツゴーターキンは、地方のローカル開催を中心に出走し、各地を転戦するようになった。5歳緒戦として京都の斑鳩S(準OP)に使うはずだったレッツゴーターキンだったが、たまたま登録していた小倉大賞典(Glll)のハンデが53kgと予想以上に軽…

『うら若き日々』

さて、橋口厩舎の所属馬として12月にデビューしたレッツゴーターキンは、3歳戦を2度使われたものの、いずれも着外に終わった。レッツゴーターキンの初勝利は、通算4戦目・・・4歳4月まで待たなければならなかった。 その後ほどなく2勝目を挙げたレッツゴータ…

『いまだ更生せず』

そんな空港牧場の関係者たちの苦労も、ようやく終わる日がやって来た。3歳秋になって橋口弘次郎厩舎への入厩が決まった「オチコボレ」は、ようやく栗東のトレセンへと送り出されていったのである。ようやくその手から希代の問題児を放した彼らは、肩の荷を降…

『オチコボレ』

もっとも、このような血統背景を持つレッツゴーターキンだったが、育成牧場での評判は芳しいものではなかった。 社台ファームは、当時から生産と育成を分けて行っていたため、レッツゴーターキンは育成のため、やがて千歳の社台ファーム空港牧場に送られてい…

『社台の誇りの血』

1992年の天皇賞・秋を制したレッツゴーターキンは、1987年4月26日、早来・社台ファームで生まれた。社台ファームといえば、いわずと知れた日本最大のブリーダーである。 レッツゴーターキンは、母ダイナターキンの第3仔に当たる。レッツゴーターキンの牝系は…

『旅路の果て』

1992年秋の古馬中長距離Gl戦線の始まりを告げる第106回天皇賞・秋(Gl)当日、全国の競馬ファンの注目は、ただ1頭のスターホースに注がれていた。トウカイテイオー・・・それが、当時の競馬ファンの注目を独占したそのサラブレッドの名前である。 トウカイテイ…

■第008話―煌く殊勲の向こう側「レッツゴーターキン列伝」

1987年4月26日生。牡。鹿毛。社台ファーム(早来)産。 父ターゴワイス、母ダイナターキン(母父ノーザンテースト)。橋口弘次郎厩舎(栗東)。 通算成績は、33戦7勝(3-7歳時)。主な勝ち鞍は、天皇賞・秋(Gl)、小倉大賞典(Glll)、中京記念(Glll)、谷…

『時代の中の彼』

オサイチジョージというサラブレッドを語る場合、果たしてどのような評価が正当なものといえるだろうか。一般的なファンのオサイチジョージ観は、「フロックでオグリキャップに勝った幸運な馬」 「オグリキャップのラストランに続く『終わりの始まり』を演出…

『忘れられて』

こうして競走馬生活を終え、種牡馬入りするために北海道へと帰っていったオサイチジョージだったが、引退後の彼のイメージに暗い影を落とす事件が起こったのは、その直後のことだった。オサイチジョージがターフを去って間もない1992年4月、オサイチジョージ…

『それから』

宝塚記念(Gl)でオグリキャップ、イナリワンを下してGl制覇を果たしたオサイチジョージに対しては、次代の競馬界を担う新世代のエースとして、大きな期待がかけられた。長く競馬界を支えてきた「平成三強」だったが、イナリワンは既に7歳、オグリキャップとス…

『最初で最後の・・・』

オサイチジョージが勝者となった背景に、この日オサイチジョージにとって有利な条件がいくつか重なったことは事実である。主催者発表は良馬場ながら、4開催使われて荒れた馬場は、先行馬有利のものだった。また、オグリキャップの鞍上の岡潤一郎騎手は、普通…

『衝撃、走る』

オサイチジョージは、第4コーナーで楽な手応えのまま先頭に立った。オグリキャップは、まだ2、3馬身後方にいた。しかし、その時ファンのほとんどは、数十秒後に何が起こるかをまったく予測していなかった。オグリキャップが差し切るには、十分な位置と思われ…

『前へ』

この日のレースは、人気薄のシンウインドの逃げから始まった。オサイチジョージと丸山騎手は、2番手に取りついた。後方待機を決め込んだ安田記念とは、全く違う戦法だった。 オグリキャップは、この時4番手と絶好の位置をキープしており、勲章をひとつ加える…