『祈りの中で』

「ライアン復活か？　」

　奥平師らの気配がファンにも伝わったのか、あるいは応援する馬と心中しようという思い入れか、復帰後2走の凡走にもかかわらず、メジロライアンは1番人気に支持された。出ればそれだけで人気になるのがメジロライアンだつた。もしここで三度（みたび）凡走しようものなら・・・。その時は、即座に引退させる、というのが、日経賞へメジロライアンを送り出した奥平師の覚悟だった。

　しかし、ファンの想いを解したか、奥平師の覚悟が通じたか、この日のメジロライアンは、それまでとはまったく違った走りを見せた。最初は後ろからのレースになったものの、ペースが遅いと見るや、メジロライアンは積極的に動き、前との差を詰めていった。道中次第に位置どりを押し上げて、第4コーナーを回ったところでは早くも2番手の位置につけていた。その力強い迫力は、まるで全盛期が帰ってきたかのようだった。

　そんな走りで直線に入ったメジロライアンを待っていたのは、Glかと思わせるような大歓声だった。いや、Glでもこれほどではあるまい、という絶叫の嵐である。そして、その大歓声はただ1頭のためにあった。

「ライアンが、あの強かったライアンが還ってきた！　」

　そんな凄まじい歓声に迎えられたメジロライアンは、余力のなくなったメイショウビトリアを抜き去ると、後続を一気に突き放していった。重馬場で時計がかかる馬場だったことも、脚に爆弾を抱えたメジロライアンにとっては幸運だった。2着カリブソングに２馬身1/2差をつけ、メジロライアンは先頭でゴールを駆け抜けた。

　その日の勝者、メジロライアンを迎えたウィナーズサークルは、スタンドからわき起こる拍手によって温かく包まれた。宝塚記念以来9ヶ月目の復活劇は、そんな温かい光景によって幕を下ろしたのである。