『魅せられて』

 モンテファストの父シーホークは、種牡馬として素晴らしい実績を残したステイヤー種牡馬であり、母モンテオーカンもまた、中央競馬で走って9勝を挙げた名牝である。

 ただ、後世においてモンテオーカンに「名牝」という呼称を用いる場合、それは彼女の競走成績よりも、むしろ繁殖成績を称えてのことが多い。彼女の産駒は、モンテプリンスモンテファストをはじめ非常に優れた成績を残したからである。

 モンテオーカンの繋養牧場であり、モンテファストの生産牧場でもあるのは、浦河の杵臼斉藤牧場である。ただ、もとをただせば、モンテオーカンを生産したのは、杵臼斉藤牧場ではなかった。中央で9勝も挙げたほどの牝馬ならば、引退後は生まれ故郷の牧場で繁殖入りするのが普通である。しかし、モンテオーカンの運命は、たまたま彼女が勝ち上がった条件戦を、当時は杵臼斉藤牧場の跡継ぎ息子だった斉藤繁喜氏がテレビで観戦していたことから、大きく動き始めた。

 当時23歳だった斉藤氏は、偶然目の当たりにしたモンテオーカンの馬体、勝ち方にすっかり惚れ込んでしまった。調べてみると、ヒンドスタンを父とする血統も魅力的だった。斉藤氏が父親にモンテオーカンを預けてもらう方法はないだろうか、と相談したところ、父親には

「何の面識もない牧場にあんないい馬を預けてくれる馬主や調教師がどこにいる」

とあきれられてしまった。しかし、モンテオーカンのことが諦めきれない斉藤氏は、父親の反対を押し切って上京の途についた。モンテオーカンが引退したら、自分の牧場へ預託馬として預けてもらいたい。その熱い思いを伝えるため、彼はモンテオーカンがいる松山吉三郎厩舎へと乗り込んだのである。